内田康夫夫人であり、作家・エッセイストでもある早坂真紀の随想を不定期でお届け致します。
行って来た
2016.11.5 Sat
渋谷区郷土博物館・文学館の特別展『内田康夫と渋谷』に行って来た。
場所はちょっと分かりにくかったけれど、いわゆる渋谷の繁華街とは違い、かつては豪邸が建ち並んでいたのだろうなと想像させる閑静なところにあった。
この催しは気にはしていたが、私は夫の介護にかまけて文学館や内田康夫財団のスタッフに任せたままだった。
ウィークデーだったのであまり人出はなかったが、そのかわり静かに思い出に浸ることができた。小規模ながらよく考えられていて、この催しを企画担当した方々の『内田作品』に対する愛情をたくさん感じられた。
幡ヶ谷……。以前に会報の『木霊』に書いたと思うが、幡ヶ谷は作家としての『内田康夫』スタートの場所だ。
作家になるとは思ってもいなかったあの頃。
あの頃の幡ヶ谷駅あたりの写真に、「電車の一番前の車両から下りて、改札口を出てきたのよね」なんて思い出して胸キュン。慎ましく暮らしていたんだわ……、あの頃。
そして声には出さなかったけれど、いつのまにか野口五郎の♪電車の中から降りて来る…♪と『私鉄沿線』を歌っていた。
それにしても『内田康夫』は、家族で読み回しのできる上質な作品を、こんなにたくさん書いていたのだなと、改めて思った。そして脳梗塞という病気が、なぜこんな上質な作品を書く作家を選んだのだ、せめてもう少し軽めにしてくれればよかったのに、と涙が出てしまった。
執筆に向けて、いま懸命にリハビリに励んでいる夫に、今日のことを報告しなくては……。
報告しているうちに、私、また泣いちゃうんだろうな……と書きながらウルウル。