内田康夫夫人であり、作家・エッセイストでもある早坂真紀の随想を不定期でお届け致します。

キュン！

2022.8.8 Mon

テレビのＢＳ放送のＣＭのほとんどが通販だ。そのほとんどが便秘薬・若く見せるための化粧品・栄養剤と自社製品を「安い！安い！」と宣伝している電化製品で占められている……ような気がする。
私は便秘症ではないし、今さら若く見られなくてもいいし（若く見られるだけで本質が若くなるわけではないから）、「安い！安い！」と言われなくても、安いと決めるのは売るほうでなく買う方だから。
『音楽のある風景』というＣＤのＣＭがある。むかし懐かしい演歌・ジャズ・ムードミュージック等々が、ジャンル別に４～５枚に収められていて、楽曲名をバックで紹介しながら曲を流す。
曲名の紹介の中に、私は『学生王子のセレナーデ』というタイトルを見つけて、 胸がキュン！
むかし見た『THE　STUDENT　PRINCE』というミュージカル映画で、皇太子が居酒屋の娘に恋をして歌うテノールに胸がキュン！キュン！と なったことを思い出してキュン！　テノールの高音の部分で、ちょっと鼻にかかるような切ない声になったときにキュン！ だったのだ（エルビスが映画の中でラブミー　テンダー を歌ったときはキュン！ ではなく、ウッフン！だった）。
ある国の皇太子がハイデルブルク大学に遊学して、学生たちが集まる居酒屋の娘に恋をして……と、ストーリーは大したことないのだが、見たときが若かった。
そして、そう！
ワールドクルーズで、たぶんノイシュバンシュタイン城を見たあと、車でどこかに移動する途中、ハイデルブルク大学（もの凄く歴史が古い）の前を通過しようとしたのだった。
そのとき突然私は映画の中の大学の構内を思い出した。悪さをした学生を閉じ込めた牢屋。牢屋に入ったことも学生の自慢のひとつで、牢屋で石の壁に残した落書き、皇太子が大公になってから訪れた馬車道……。
「あ！　寄って行きたい！」とわめいたけれど、「時間がありません」と大学の前を走り抜けただけ。
でも予期しなかったハイデルブルク大学をナマで見ただけで、私は満足！満足！
そしてＣＤのＣＭでキュン！を思い出して、YOU　TUBEで何十年かぶりに 『学生王子のセレナーデ』を聞いて、キュン！キュン！
そう言えばエンジェルスの大谷翔平さんのおかげで、『キュン！』という言葉がアメリカでメジャーになっているとか。