内田康夫夫人であり、作家・エッセイストでもある早坂真紀の随想を不定期でお届け致します。
小樽殺人事件
2022.7.9 Sat
浅見光彦友の会で発行している季刊誌『木霊』26号で、「あなたの好きな内田作品のジャンルは?」のアンケート発表があった。
好きなジャンルと言われても、私は「内田作品そのもの」と答えるしかないが、でも……、強いて言えば私は「社会派」かな?
しかし内田作品は社会派であっても堅苦しいものではなく、旅情・文芸等で味付けされているので、肩肘を張らずに読めるから「これぞ社会派」と絞ることはできない。やはり「内田作品そのもの」と答えるしかない。
しかし163の全作品のなかでの、ゆるゆるだけど私の中に順位はある。その中程に位置する『小樽殺人事件』の2回目を読み終えた。読み終わると中程度と位置づけたけど、もう少し上かなと思わせるのが、内田作品だ。
途中一カ所、 笑ってしまった。
浅見が冬の小樽に向かうのに、ソアラのタイヤをスパイクタイヤに履き替えるところがあるのだ。う~ん! スパイクタイヤかァ!
スパイクタイヤは雪道を滑らないように、タイヤに釘状のものがついている。雪が少なくなるとアスファルトを削りながら走るので、アスファルトの粉塵が舞い、沿道に住む人の健康問題が起こった。それで今ではスタッドレスタイヤになったのだが、時代だなァとおかしかった。
それと作品の中に出てくるクロアゲハ。クロアゲハは亡くなった人の霊だと言われているようだ。作品の中でもクロアゲハが鍵になっていた。
そして……。夫が亡くなって1年くらい経ったころ、私が『光彦記念館』に行くと、エントランスに黒っぽいチョウチョがいたのだ。私が近づいても逃げようとせず羽根を休めている。私は「夫?」と、ちょっと鳥肌がたった。近づいてケータイで写真を撮っても動かずにいる。そのあと来館者の足音にどこかに飛んでいってしまったが、後日にはティーサロン『軽井沢の芽衣』の庭にも黒いチョウチョがいた。
図鑑で調べるとクロアゲハではなくカラスアゲハのようだった。そして、この文章を書いてケータイの写真を見ると、2019年8月16日だった。お盆ではないか。
夫が亡くなって1年後のお盆! 帰って来ていたのだなと、今さらながら夫は、友の会の会員さんが集う記念館と芽衣に心を残しているのだなと思った。
今はもう風になっているはずだから、木の葉がそよいだら、それは夫が憩いに来ているのだと思うことにした。ちょっと少女趣味だけど。