内田康夫夫人であり、作家・エッセイストでもある早坂真紀の随想を不定期でお届け致します。
キュン……Ⅱ
2022.8.14 Sun
『白須今』という若手のバイオリニストがいる。その青年が先日バイオリン持参で軽井沢に遊びに来てくれた。以前行ったコンサートや、あるパーティーで友人に紹介された、今どき珍しい謙虚で爽やかな青年だ。そしてハンサム!
軽井沢に何連泊もするのは初めてらしく、思い切り軽井沢の風を堪能したようだ。東京に帰る前にティーサロン『軽井沢の芽衣』に寄ってくれて、庭やお店のたたずまいに「素敵ですねエ! イギリスみたい」と感動していた。
店内に入ると彼は天井を見上げて「天井が高くて音が響きそうだ……」
お客様はほぼ満席で、そこで私は厚かましくもおねだりをした。「バイオリンを弾いていただけませんか?」
本来ならばプロに対して失礼な話なのだが、もちろんOKで、突然のミニ演奏会に皆さん静かに耳を傾けて素敵な空間になった。
高い天井に響くバイオリンの音色がテラスにまで流れて、テラスのお客様もいい雰囲気を楽しんでいらした。ここで庭に青いジャケットのピーターラビットが現れてくれると最高なのだが……。
その後お茶をして『妖精の棲む森』に入って、「ここで弾いてもいいですか?」って。駄目なわけないでしょう!
森の小径に流れるバイオリンの音色に、私は胸キュン!
何だか木の葉っぱが音符になってそよいでいるようで、私は胸キュン!
ほんとうに妖精がいて、今にも姿を現しそう……って、妖精が棲んでいるから『妖精の棲む森』なんだけど。
こんな森の中で生のバイオリンを聞くなんて、私、生まれて初めて。感動!
白須さんが、いつか『芽衣』でサロンコンサートをしたいそうだ。もちろんOK!OK!
ああ!長生きはするものだ。夫に「まだ当分は迎えに来ないでね」と言わなくては……って翌日、スコーンセットを食べて帰ろうとすると、目の前の木の枝からクロアゲハが舞い降りてきた。近づくと森の方に飛んで行ってしまったけれど、「バイオリン、聞いていたよ」と夫が知らせにきたのかと胸キュン! このキュンは切なさのタイプが違うキュン!