内田康夫夫人であり、作家・エッセイストでもある早坂真紀の随想を不定期でお届け致します。
あかね色
2023.1.11 Wed
♪あかねぼかしの 日暮れの空よ♪
風景としてはきれいだけど、私の売れないレコードの歌詞だ。
歌ったのが有名な歌手だけに、売れないのでは失礼になるから名前は書けない。
もっともレコードが売れなかったのは、私だけのせいではない。
私は歌謡曲のレコードを5~6枚出している。けれど1枚もヒットしなかった。だから軽井沢暮らしが実現したのだけれど。
軽井沢の森はすっかり裸木になって、空が寒々しい。我が家のベランダから、夏には見えなかった浅間山が見えるようになった。そして晴れた日の日暮れには、シルエットだけになった浅間山を背景に、空をあかね色に染めてトロトロと燃えながら沈む太陽。やがて鮮やかだったあかね色が少しずつ薄れて、残照が消えるとあたりは漆黒の闇になる。
東京の夕焼けも、それなりに風情はある。
我が家の遠く西側にあるビル群をシルエットにして、東側のビルをあかね色に反射させて太陽は沈んでいく。しかし東京に闇はない。
通りのネオンや街灯。そして一晩中消える事のないビルの窓灯りと、高層ビルの屋上の赤色灯。でもそれはそれなりにきれいだ。
あかね色の空に思わず口ずさんでしまった♪あかねぼかしの~♪と一緒にしてはいけないけれど、『あかねさす紫野行き標野行き野守は見ずや君が袖振る』は、私の好きな歌だ。