内田康夫夫人であり、作家・エッセイストでもある早坂真紀の随想を不定期でお届け致します。
天才?
2017.3.14 Tue
短歌を勉強するために、私は『歌枕かるいざわ』を読み直した。そして「う~ん!」と唸って、言葉もなかった。夫はやはり天才かも……と改めて思った。
普段作品を執筆している時の姿はちゃんと見ている。しかし『歌枕かるいざわ』の歌を詠んでいる姿を思い出せない。私の知らないうちに100首を詠んでいたとしか思えない。小説の時はそれなりに生みの苦しみをそばで見ていたつもりだけど、この短歌は……。
この美しく豊かな語彙と感性が、夫の頭の中に詰まっていたなんて。
囲碁は子どもの頃、大人が打っているのを見ていて覚えて、大人になってからアマチュアの6段。
ピアノだって習ったことがないからヘ音記号は読めない。だから左手はコードを、それもいわゆるオカズをつけたりして崩しながら弾いていた。まるでナイトクラブのような雰囲気だった(褒めすぎか?)。
字は上手いし、小説だってただの謎解きではなく、歴史・伝説・文化・時事問題等々を織り込んでいて知らずに私の教養を高めさせてくれた。
天は人に二物を与えず……なんていうけど、それはウソ。夫には二物も三物も与えて、私には汚物しか与えなかった……と、それは冗談なのに「あなただって、いいところがあるじゃないの」と真面目人間に返されて白けたこともあったっけ。
……と横道にそれたけれど、夫はやはり天才だ。
なのに、なんで脳梗塞?と、私は恨めしい。
なってしまったことは仕方ない。いまは夫と二人で短歌詠みに頑張っている。いつの日かまた長編を……と、眠りかけた脳細胞を「眠らせないぞ!」と掘り起こしている。
しかし夫のダジャレはまだまだ眠ってはいない。
例えば短歌(たんか)と言って、思い起こす「たんかという漢字」ごっこに、単価・担架・炭化・啖呵など、私の方が勉強させられているのかも?