内田康夫夫人であり、作家・エッセイストでもある早坂真紀の随想を不定期でお届け致します。
春が来た
2017.3.24 Fri
多分、去年も書いたような気がするが、日当たりの悪いビルの陰のレンギョウが侘びしく咲いていた。日当たりのいいよそさまの庭には、ユキヤナギが花をつけている。
サクラの開花宣言もあったし、TBSのACTシアター前のしだれ桜は満開だ。いよいよ春が来たのだった。
軽井沢の我が家の庭にもレンギョウやユキヤナギの木がある。ヤマザクラの木もあるけれど、軽井沢の春はまだ先だ。やっと芽吹きの準備を始めるころだろう。
でも、こんな話は夫にはできない。軽井沢に帰りたいと言って、二人して泣いてしまうからだ。
25年前、家を建て直したときなぜバリアフリーにしなかったのかと、後悔しきりで……って、今さら言っても詮無いことだけど。
軽井沢に夫を連れて帰ってから、もう1年も経つ。4月1日が近づいて来る。
あの時『浅見光彦記念館』の玄関先で、大勢の会員さんや編集者の方々に迎えられて夫は感無量で無口になっていたけれど、もし……、もし今度同じような状態になったら、今度は泣いちゃうだろうな。
リハーサルしていた「ただいま!」も言えなくなって、「おかえりなさい!」と言う方も、みんなで泣いたりして……って、私、想像するだけで泣けてくる。
泣いちゃうけど、『春が来た』