内田康夫夫人であり、作家・エッセイストでもある早坂真紀の随想を不定期でお届け致します。
あれから……
2017.3.31 Fri
あれから1年が過ぎた。
あの時の軽井沢にはまだ緑がなく、風も冷たかった。そして夫は左半身のマヒのせいで、自分の意志で歩くことも立つこともできず……で、介助付きの車椅子生活だった(今も療養に努め頑張っているけれども……)。
去年の4月1日は内田康夫財団の「浅見光彦記念館」オープンの日。夫はどうしても軽井沢に行きたいと言った。「会員さんが遠いところから来て下さるはずだから、会員さんに会いたい……」と。
それで前日に友人とヘルパーさんに頼んで、介護車で軽井沢入りしてホテルに泊まった。
翌日、記念館の玄関に並んだ出版社からのお祝いの花々。そして会員さんたちと編集者たちの笑顔のお出迎え。善意の塊だった。
こんなにも大勢の方々がいらして下さるなんて……。夫もそうだけど、私も皆さんのやさしさに心打たれた。
そして1年。今でも会員さんに会いたがっているけれど、今年は夫の軽井沢行きは叶わない。でも心は軽井沢に飛んでいて、オープンの日は「ぼくの心は記念館にいるから……」と言っている。
そしてまた、次の沢山の善意に心打たれている。
未完のまま出版される『孤道』の完結編公募に対して、こんなにも沢山の好意で迎えられるとは思わなかった。毎日新聞の「『孤道』プロジェクト」のホームページには、有名な落語家さんまでもがコメントをお寄せ下さっている。
私は、もしかしたらTVなどでとりあげられている「炎上」なんてことになったらどうしようと思っていたのに、この好意的な受け取りはどうだ。感激してしまう。
私はこの『早坂真紀つれづれ』だって、悪口の対象になったらどうしようと心配で、ツイッターに関するページは見たことがない。悪口は見ないに越したことはないし。
「完結編を公募にしてよかった」と、涙もろくなっている私たち夫婦はウルウル。関係ないけど「真面目に生きて来てよかったね。これからも清く正しく生きようね」と、肩を寄せ合っている。