内田康夫夫人であり、作家・エッセイストでもある早坂真紀の随想を不定期でお届け致します。
思い出
2017.7.14 Fri
過去NHKの朝の連ドラを、私はあまり見たことがなかった。見たとしても、時計代わりにみていたくらいだった。しかし今回の『ひよっこ』は、時計代わりではなくちゃんと座って見ている。見ながら、「あの時私はああしてた、こうしてた…」と、思い出に浸っていることもある。
「貧しかったけれど、楽しかったっぺ」と。
勿論、時々(時々……じゃないな、しょっちゅうだった)アラを探し、ケチはつける(それがまた楽しいし)。このドラマ、集団就職している少女やみね子ちゃんたちがみんな小ぎれいで、貧しいわりにはみんな衣装持ちじゃんとか、引っ越し荷物はどうしたの だろうとか。
あの頃にくらべたら小顔が増えたし、足も長くなってるし顔だって垢抜けてるなんて、あの時より50年後のタレントさんが演じているのだから当たり前のことだけど。
アラ探しはボケ防止になるかも……と、ボケた頭でボケたことを言うのもボケた話だ。
そして先日の放送で、ビートルズ日本公演の警備の人たちのお弁当造りに疲れ果てた、『すずふり亭』のスタッフに、鈴子さんが「後になってビートルズの話題になったとき、今のことが懐かしい思い出話になるのよね」というようなことを言った。
そう! 『ひよっこ』でビートルズの話題になったときでなくても、ドラマを見ながら、私はこの時どうしてた、ああしてたと、懐かしく思い出していたのだった。
あの時代から50何年。思い出す度に不愉快になる思い出もあるけれど、でも一つのことを思い出すと、芋づる式に思い出はよみがえってくる。
昨日も夫とワールドクルーズの話になり、出航から始まって、寄港した港で待っている編集者とツアーをしたこと、そしてヨーロッパでのことなど「楽しかったね。病気が治ったらまた二人して『飛鳥』に乗ろう」と、思い出話に酔っていた。
今が辛くたって、後になったら思い出話になるさ……と、私は自分に言い聞かせていた。