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内田康夫夫人であり、作家・エッセイストでもある早坂真紀の随想を不定期でお届け致します。

嫉妬

2018.7.9 Mon

この秋イル・ディーヴォが日本にやってくる。
春ころにその宣伝を兼ねて日本に来ていたが、今の私の精神状態からイル・ディーヴォはちょっと遠い存在になっていた。
イル・ディーヴォのコンサート……。振り返ってみると、それは3年に1度で、私は一番始めの時を除いて、毎回コンサートに行っている。あの華やかな臨場感に興奮して、来る日も来る日も「 デイヴィッド!デイヴィッド!」だった。あの頃に私のブログも、かなりデイヴィッドへの妄想を書き連ねていたはずだ。
私があまりに「デイヴィッド!デイヴィッド!」と言うものだから、夫は密かにデイヴィッドに嫉妬していたらしい。
バレエやコンサートなど、私がいくら誘っても「行かない!」と、ほとんど断られていたのに、前々回のイル・ディーヴォのコンサートのときは、誘いもしないのに自分から「行く!」と言うではないか。たぶん敵状視察に違いなかった。それでその時は夫同伴で日本武道館に行った。
前から7番目の席。前から7番目といえば、ステージはすぐ目と鼻の先だ。それでも私はオペラグラスでデイヴィッドの姿ばかりを追っていた。
デイヴィッドと言えば身長190以上。甘いテノール、ハンサム、そして今より7才若い。
当時は私たちも7才若かったけど、夫は「負けた!」と思ったらしく、二度と一緒に行くと言わなくなった。私の戯言に「フンッ!」と、冷笑状態だった。私は私で、夫はもう私の戯言を諦めたのだろうと思っていた。
でも嫉妬の続きがあった。
友人が私にイル・ディーヴォのマグカップをプレゼントしてくれた。私はアホみたいに(アホだけど)ウキウキして使っていた。取っ手を右手に持つと口のところがウルスの顔になる。左手にするとカルロスになる。だから取っ手を向こう側にしてヘラヘラしていた。
嫉妬は怖い! 仕返しというものがあることを私は忘れていた。
ある日寝る前に、洗面所に行った私は、「ギャーッ!」
何と! そのマグカップにポリデントがブクブクと泡を吹いているではないか。そしてカップの底には……。
悔しかったけど、もう大笑い! 二度とそのカップは使えないし、私が怒らなかったので、以来毎晩、泡がブクブク。
そのことはマグカップを下さった友人には言えないでいる。このブログを読んでひっくり返るかも。
先日の『題名のない音楽会』はイル・ディーヴォ。もちろん見た。でもヨダレを垂らすと夫に悪いから、飾ってある遺影にちゃんと断りを入れておいた。
「私とデイヴィッドは、そんな関係ではないから安心してね」と(まったくアホだね、ホントのアホだけど)。
気のせいか遺影が「アホは治ってないようだね」と、冷笑しているような気がした。いや! 遺影はほんとうに今にも笑い出しそうな顔をしている。
穏やかな顔をじっと見つめていると、切なくなって泣きそう。

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