内田康夫夫人であり、作家・エッセイストでもある早坂真紀の随想を不定期でお届け致します。
感動
2018.12.3 Mon
最近の私のエッセイはテレビネタが多いけれど、そう書きながら(打ちながら?)またテレビネタです。
見たいものがあるわけではなかったけれど、独りっきりでいるのが何となく寂しくてテレビをスイッチ・オン。
番組名もどこの局かもわからないまま、チコちゃんしていたら(ボーッとしているという意味です)、寒冷地で軽トラを運転している老人が映っていた。レポーターが近づいて聞くと、95才だそうだ。
助手席に防寒着にくるまれたものがある。2年前に亡くなった奥さんの遺影だった。従兄の葬儀の帰りとか。
奥さんにも参加させたくて連れてきたけど、寒いだろうと防寒着を着せたのだそうだ。遺影の防寒着を半分脱がせて、奥さんの顔を見せてくれた。老人は照れるふうでもなく、当たり前のようなさりげない態度だった。
私! 泣きそうになった。何を隠そう! 私も遺影を抱えて夫に星空を見せたり、東京の風景を見せたり、羽生結弦のフィギュアを見せたりしていた。先日もテレビのオールブラックスと日本とのラグビーの試合を見せていた。「凄いね! オールブラックス相手にあんなに点をとったわよ」と、話しかけていた。
ラグビーの試合となるとテレビの前で石になって、ボールの行く方行く方に上体を倒していた夫。それを見て笑っていた私。
今日あった出来事を報告したり、誰かさんの悪口を言ったり、「ハグハグ」だなんて言いながら、遺影を抱きしめたりしていることが恥ずかしいと思って内緒にしていたけれど、95才の老人がOKなのだから私だって……と。
キャリーが亡くなったとき、私は立ち直るのに2年かかった。「キャリーで2年だから夫は半年?」なんて冗談を言っていたけれど、訂正! 2年経った95才でまだあんなだから、私は5年に訂正……って、私はまだ90才にはかなり間があるから誤解のないように。
95才のあの老人夫妻、しあわせだったのだろうな。さりげなく愛が通っていたのだろうなと、ほのぼのしながら感動していた。でも切なかった。私だって!