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内田康夫夫人であり、作家・エッセイストでもある早坂真紀の随想を不定期でお届け致します。

ズキッ!

2018.12.22 Sat

好きッ! ……の返還(←これは変換ミス)ミスではありません。
今年もあと少し。いろいろと切なく哀しい1年だった。
寒くなって特に冷える日は、夫の介護中の疲労骨折が時々『ズキッ!』。まるで心の古傷が痛むのと同じだ。まァ、古傷には違いないけど。
その時は大変なことをしているという思いはなかったけれど、振り返ってみたら、私は自分を褒めてやりたいという思いになる。まるで『有森裕子』状態で、私はこのところチコちゃんになったり有森裕子になったりと忙しい。
友人や編集者の方々、事務局のスタッフ、そしてヘルパーさんたちの助力がなかったら、私はあんなに頑張れなかっただろうし(その時私は頑張っているというつもりはなかった)、たぶんからだを壊していたかもしれない。
毎日毎日、自分がこれからどうなっていくのか恐怖と不安で、私を片時もそばから離さないようにわがままを言って甘えていた夫。通常の人より脳がしっかりしていたから(ドクターの話)、ほんとうに自分の将来が不安だったのだろう。
そんな状態でも仕事のことは忘れなかった夫、あんたは偉い!
また「内田康夫はあなた一人のものじゃないのよ。半分は読者のものでもあるのよ」という友人の言葉を、私は一所懸命に守っていたのかもしれない。
「会員さんに忘れられてしまう」と、会員さんをほんとうに大切にしていた夫は、しょっちゅう不安を言葉にしていた。
そんな夫を大切に思うあまりの頑張りの結果が、左足人差し指の疲労骨折だった。
疲労骨折の治療は安静だけなのだ。それは分かっていたけど……。
包帯でつま先を固定した足にと、リハビリ用の靴を買った。インターネットで調べると片足だけでも売っている。それで左足用を買った。
その靴を履いて、雨の日もピョコピョコと夫を守った。雨がジュクジュクと靴に沁みてきて、包帯も指もジュクジュク。
「あら! その靴は室内用よ」とヘルパーさんに言われて、でもあと少しだからと我慢した。
その我慢の結果が、寒い日の『ズキッ!』なのだ。完治しないままに、なんとなく治ってしまったつもりになっていたから。
捨てられずに、その靴はシューズクローゼットに今でもある。言ってみれば『介護勲章』だもんなァ。
胸にぶら下げるわけにはいかない勲章だけど、でも「私って頑張っていたんだなァ」と胸キュンと足ズキッ!

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