内田康夫夫人であり、作家・エッセイストでもある早坂真紀の随想を不定期でお届け致します。
イチョウ並木
2018.12.15 Sat
青山一丁目の交差点で信号待ちをしているときに、中国からの観光客に『イチョウ並木』を聞かれてから1年余りが過ぎていた。
あのとき英語で話しかけられてオタオタしながらも何とか教えて、オマケとして東宮御所が英語で『トーグーパレス』と言うことを知ったのだった。
今日、青山1丁目の某所で所用を済ませたとき、ふとイチョウ並木を歩いてみたくなった。
夫と出会うころに住んでいた青山……と言ったらカッコいいけど、要するにシングル用の公団アパート……と言ったら侘びしい感じだけど、そこは青山だから外観はおしゃれっぽい。
大好きな青山だし青山通りだから、一応シティーガールを気取ってイチョウ並木を目指して胸を張って歩いた(ハイヒールを履いてきてよかった)。
絵画館に向かった通りの、車道をはさんだ側の木はもうすっかり裸になっていたけど、両歩道の外側はまだ黄葉がかなり残っている。そして歩道は黄金色のじゅうたんが敷き詰められたままで、私はもっと気取ってゆっくりと歩いた。
外国の観光客は大勢いたけど誰もいないことにして、私は映画『第三の男』のラストシーンのあの女性を思い浮かべ、今だけ足が長いつもりになってちょっと自己陶酔。
このことを夫に報告したら、絶対にバカにした顔で笑われるに決まっている。
でもイイや! と、しあわせなひとときだった。でももう一度バカにした顔で笑われたいな。