内田康夫夫人であり、作家・エッセイストでもある早坂真紀の随想を不定期でお届け致します。
ヤバイ!
2019.5.2 Thu
なんだか最近はやたらと「ヤバイ」という言葉を耳にする。何を言っても「ヤバイ!ヤバイ!」。
美味しい料理を食べても「ヤバイ」。叱られても「ヤバイ」。元号が変わったとき、街の女の子たちが声を合わせたように「ヤバイ! ヤバイ!」のオンパレードだった。
『ヤバイ』という言葉は広辞苑によると「不都合である。危険である」という意味で、本当は良くないことが起きたり、起こりそうな時に使う言葉だ。私はずっと下品な言葉だと思っていた。
言葉は時代とともに変化するといっても、美味しいものや美しいものに対して「ヤバイ」はないだろう。
まして新しい元号に対して「ヤバイ!ヤバイ」はないだろうと思った。
「元号は『令和』になりました」と聞いて「ヤバイ!」なんてとんでもない! 縁起でもない。 親やそばにいたマスコミ関係の人ッ! 「そんなこと言っては、天皇陛下に対して失礼の極みだ」と注意してやりなさい。
私はこのところ、がっかりするほど語彙が減ってきた。頭の中には浮かんでいるのだけど、言葉で表現できなくなって自己嫌悪に陥ることが増えた。
夫が亡くなって、彼の作品を次々に読み返しているのだけど、その語彙の豊富さにはびっくりしている。漢字……、これは辞書を引けば解ることだけど、彼の場合はいつ・何処で何を聞いても、たちどころに答えてくれたものだ。
中学生のころ、私は母に漢字を聞いた。答えは「辞書を引きなさい」だった。「聞いたものは身にならない。調べたものは一生もの」なのだそうだ。そして「本はたくさん読みなさい。読んでいれば、漢字なんて自然に覚えるもの」なのだそうだ。でもそれは私には当てはまらなかったらしい。
ヤバイ! 一生もののはずが消えているし、その後の私は夫に聞いてばかりいたから身につかなかったのか。
これはヤバイことになったぞ……と、この場合の「ヤバイ」は品がないけど正しいのです、私は使いたくないけど。