内田康夫夫人であり、作家・エッセイストでもある早坂真紀の随想を不定期でお届け致します。
大安売り
2019.8.11 Sun
夏の高校野球が始まった。夫の執筆がストップする季節だ。
夫は高校野球が好きで、地方大会の第一試合から見ている。テレビの前から動かない。そして「アッ!バカだなア」だの「これは監督が悪い!」だのと、一人で盛り上がっていた。指定席があって、テレビを見るときはいつも同じ場所に座っているので、ソファーの夫の指定席はスプリングがバカになって、そこに座るとズンッ! とからだごと沈んでしまう。私が隣りに座ると、寄り添うつもりはなくても、からだが夫の方に倒れて「何だか、仲良しみたいだね」状態だ。
昨日の開会式を一人で見ていた。真っ黒に日焼けして緊張した面持ちで行進する少年たちを見ていたら、腕組みをしてテレビの中に溶け込んでいる夫を思い出して、目が汗をかいていた。
朝食の後片付けをしようとしたら、台所の窓の網戸にジバチのようなハチがいた。
夫がいたら「うおーっ!ムシだーア!」と、それこそ人間が死ぬぞと思うほど殺虫剤を吹きまくり、後始末は私にさせるシーンだ。私はハシをハチで摘んで……いや!、ハチをハシで摘んで水道でジャージャー水浴びをさせて、シンクの隅の生ゴミの中に捨てた。
何と! 浅見光彦記念館やティーサロン「軽井沢の芽衣」から帰ってきたら、そのハチがまた網戸でジタバタしているではないか。凄い生命力だ。「その生命力を、なぜ彼にくれなかった」と言いながら、またハシで摘んで捨てようとしたら、蛍光灯が一瞬、ふわっと消えた。
「エッ? もしかしてこのハチは?」と、夫の生まれ変わりかもしれないとアホなことを思って、庭に出してやった。夫は軽井沢に帰って来ているはずだから。
妹にそのことを言うと、もちろん笑われた。「あんなに虫が怖くて嫌いだった人が、よりによってジバチになるわけないないじゃない」。
わかっているけど、朝、目に汗をかいたばかりだもんなア!それにあちら(と、空を指さす)に行ってから、殺生はいけないと気持ちが変わったかも。お盆も近いことだし(と書いたら、いま、台所の方でギシッと音がした)、やっぱり帰って来てる。
今月はずいぶんブログをアップしているなア。文章も長めだし、これでは『夏の大安売り』だよなア!
ま、いいか。暑い暑い今年の夏。どうぞご自愛のうえ、お過ごし下さい。