内田康夫夫人であり、作家・エッセイストでもある早坂真紀の随想を不定期でお届け致します。
夫へのラヴレター
2020.3.13 Fri
あなたが逝ってしまって2年が経ちました。あなたのいない暮らしに慣れるまで、まだ少し時間がかかりそうです。でも、心配しないで下さい。毎日あなたの遺影とおしゃべりしていますから。
あなたが旅立つ1週間ほどまえに、Tさんの夢に出てきて「ぼくはそろそろ遠くに行かなくてはならなくなった。ぼくがいなくなっら、カミさんのこと守ってやってね」と頼んでくれたのですね。
Tさんはあなたに頼まれたことを、ちゃんと守って下さっているし、ふっとそばにあなたの気配を感じるのは、何よりも私を守ってくれているのだと、それがうれしいです。
そして時々だけど、私の夢に現れてくれるのがうれしいです。夢の中のあなたは、闘病中の面やつれしたあなたではなく、元気だった時のうれしそうなあなたなのが、もっとうれしい。
先日私は人間ドックに入ってきました。別に取り急いで対処しなければならないことはないそうです。
病院に行ったら病気になるとあなたが言っていたように、ドックに入ったら何かしらが出てきます。加齢による諸々もありますし、何かが見つかるのは当たり前ですよね。
胃カメラもやりました。もうピロリ菌もなく、キャリーが亡くなったあとのペットロスシンドロームによる、『十二指腸潰瘍』の痕もきれいになっているようでした。
キャリーが亡くなったときには十二指腸潰瘍になったのに、あなたがいなくなった時は潰瘍にならなかったと、ドクターに言いました。
「それはピロリ菌がある時に究極のストレスを抱えると、ピロリ菌が悪さをするのであって、ご主人のときはピロリ菌がなかったからでしょう」とおっしゃいました。
そう言えばあなたが闘病中に受けた検査で見つかったピロリ菌を、退治していたからでした。それを聞いて安心しました。
あなたがいなくなって2年も経つのに、潰瘍にならないなんて。私のあなたへの愛がキャリーより少なかったのかと、ちょっとそれはない……と思っていたものですから。それによく考えたら、キャリーはペットだけどあなたは夫だもの。愛の形がちがいますよね。
いま、あなたの作品の数々を読み直しています。扱うテーマが作品毎にしっかりとしていているのもそうですが、文章そのものに品格があり、これは誰にも真似できない作品だと、改めてあなたは天才だったと誇らしいです。
事務局のEもまだあなたの夢を見るのだとうれしそうです。Oも見るそうですが、いつも叱られてばかりだと言ってました。今度はほめてやって下さい。
このままだと、会員さんたちがぼくのことを忘れてしまうと、あなたは哀しそうに言っていたけど、私はもちろん事務局のスタッフもTさんも、会員さんたちも編集者の方々も、いまでもあなたのことを愛していますよ。
今日は『野想忌』で、会員さんたちと国際フォーラムのレストランに集って、あなたの思い出話を楽しむはずでした。私も楽しみにしていたのに、残念ながらコロナウイルスの感染が怖くて中止になりました。
中止になっても、それぞれの場所でお仲間たちと、絶対に噂話が出るはずです。絶対あなたのことは忘れないと思います。私だって遺影の前であなたとおしゃべりをします。
お願いです。私がそばに逝くまで、まだまだ私のまわりでウロチョロしていて下さい。