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内田康夫夫人であり、作家・エッセイストでもある早坂真紀の随想を不定期でお届け致します。

棄霊島

2022.4.3 Sun

角川文庫版の『棄霊島』を読み返した。わりと重いこの作品を読んでいると、私の単脳(単細胞とも言う)が時々酸素を求めるらしい。
まず最初の軽い酸素は第一章の2で、浅見が直江津から乗るフェリーだった。
「ン?」と単脳は酸素注入でつかの間休息した。『ニューれいんぼうらぶ』?
2002年に新潮社から出した私の本『白い船』の取材で乗ったのが、『れいんぼうらぶ』だったのだ。もう絶対!絶版になっているはずの作品だけど、自分の作品の、初めての編集者との取材。姉妹船とはいえ、この船に浅見……いや! 夫も乗って、私が見た風景を見たのだと、目にちょっと汗。この船内の描写をしばらく上の空で読みながら「ん?」。
ミステリーだ。思い返せば『棄霊島』の五島列島の取材は、私も同行している。あの時『れいんぼうらぶ』に乗っていたら、二度目だから覚えているはずだ。でも記憶がない(単脳の老化?)。でも……、乗った? でも……。
私の作品は読んだことがないと言っていた夫だったけど、もしかして……ン? それとも追加取材で、私に内緒で乗った? う~ん、ミステリーだ。
そして……。
午後6時から、毎日のようにBS日テレで『桃太郎侍』という何十年か昔の時代劇を再放送している。
桃太郎侍の高橋英樹(以降敬称略)の若いこと。植木等や藤岡琢也など、出演している主だった俳優さんの大半が、もうあちらの世界に旅立っている。
私はコロナのお籠もりでたまたま見始めた番組で、それまで『桃太郎侍』を知らなかった。でもいまでは桃太郎が「桃から生まれた桃太郎」と名乗るところから「許せん!」と啖呵を切るタイミングまで分かっていて、そのタイミングで私も声を出して啖呵を切っている。誰かが知らずにその現場を見てしまったら、私がアホになったか、それともお籠もりで気が触れてしまったかとひっくり返ることだろう。
それはともかくとして下巻48ページに、桃太郎侍の「許せん!」が出てきたのには驚いた。
浅見の感情が昇華して、『テレビの時代劇「桃太郎侍」なら、「許せん……」と言って登場しそうな場面だ。』とあった。
ただそれだけのことなのだが、この作品は2004年から週刊文春に連載していたはずだから、夫はこの番組をその前からオリジナルで、しっかり見ていたということになる。
さすがテレビっ子だと、今更ながら笑ってしまった。
ついでに思い出したのが私の父と妹のこと。
テレビで「待てッ!」と逃げる犯人を追いかける場面になると、父はいつも「待てッと言っても待たんだろうが、待てッ!」と言いながら笑っていた。そして十歳違いの妹は「おのれ!名を名乗れッ!」に「おれの!名を祈れッ!」と、これは聞き違いだけど、アホはすべては血筋というものか……?
どちらかと言うと社会派のミステリーが思い出させた、ちょっと笑えるハ・ナ・ シ。

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