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内田康夫夫人であり、作家・エッセイストでもある早坂真紀の随想を不定期でお届け致します。

小型犬

2022.5.20 Fri

買い物に行く途中、小さな公園がある。春になるとバラの花のきれいな公園だ。
バラの芽吹きが始まった日だまりのベンチで、本を読んでいる女性がいた。その足下で、セントバーナードのような大きな犬が寝そべっていた。それは一枚の絵だった。
私がキャリーを思い出しながら通りかかると散歩の途中だろうか、リードを解かれた小型犬が、ちょこちょこと自分の10倍以上はありそうなその犬に近づいて、キャンキャンと吠え始めた。大きな犬は寝そべったままうるさそうに片目を開け、小型犬をチラッと見て無視したようにまた目を閉じた。
何も言わない大型犬を甘くみたのか、吠えているうちに自分の声に興奮してきたのか、小型犬はいっそうしつこくキャンキャン吠えていた。
たまりかねた(たぶん)大型犬は「うるせえッ!」と言うように、野太い声でひと声「ウワンッ!」と吠えた。
小型犬は「キャイーン!」と尻尾を巻いて「あの犬に攻撃された」(たぶん)と飼い主のところに飛んで逃げた。近くにいた人も通りかかった私も、声を出して笑ってしまった。大型犬の飼い主も笑っていたが、小型犬の飼い主の女性はムカついたような顔をして小型犬を抱き上げると、大型犬をにらみつけてさっさとその場から離れた。
私のそばを通り過ぎるとき、小型犬は飼い主の腕の中で「キュンキュン、ワタシ虐められたの」と言うように震えていた。
『小さな犬ほどよく吠える』ということわざがある。これは人間社会でのことを喩えたものだが、このことわざを知らなかったり現場を見てなかったら、当然小型犬のほうが被害者(被害犬?)に見えるだろう。
大型犬はひと声吠えただけでも加害犬に見えるのだから。可哀そうな大型犬。
『沈黙は金』なんだけど、キャンキャン騒いだほうが『金』になるなんて、そんな社会は……。残念!

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