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内田康夫夫人であり、作家・エッセイストでもある早坂真紀の随想を不定期でお届け致します。

残虐

2022.5.13 Fri

このところのウクライナの辛い現実を見ていると、人間の残虐性が辛くやるせない。同じ人間同士なのにと。
またまたワールドクルーズの時の話になるけれど……。
クルージングだから、寄航した港から日帰りで足を伸ばせるツアーが普通なのだが、このときは飛鳥を降りて、港で待っていた編集者と何泊だったかの旅行をした。ドイツ在住の知人の案内でオーストリアを回った。
オーストリア! 
回った順番は忘れてしまったけれど、狂王ルートヴィッヒ2世(余計なことだけど、私はルートヴィッヒの生涯を読んで、ワーグナーが大嫌いになった。その後テレビでバイオリニストの葉加瀬太郎さんが「ぼくはワーグナーが嫌いなんですよ」と言っているのを見てうれしくなったことがあった)の『ノイシュバン シュタイン城』の見えるホテルに泊まった、翌日その城に入ったり(お城に関する諸々はネットで調べられるから省略)、入水自殺した(……と言われているけど謎)湖に浮いている十字架や、遺体が祭られていると言う霊廟に行って、本当にルートヴィッヒは存在したのだと不思議な気持ちになっていた。
『サウンドオブミュージック』の男爵のトラップ大佐の家だったプチホテルにも泊まった。男爵家にしては小さいなと思ったが、二階への階段の壁に7人の姉弟妹の写真が飾ってあって、トラップ家も本当に居たのだと不思議な気持ちになった。
オーストリアにもナチの嵐が吹き荒れて、大佐は自国を愛しナチを嫌って、だからアメリカに亡命してしまったのだけど。
そしてマウトハウゼン強制収容所に行った。そこにはユダヤ人虐殺の諸々が、負の遺産として残されていた。
ただユダヤ人だというだけで収容所に送られ、いわれのない超強制労働をさせられたり、シャワーを浴びるのだと思っていたらガス室だったり……。人間の皮を本の表紙にしたり、所長夫人などは「いい皮があったら取っておいて……」と言ったりと、本当にここまでやるか!という残酷さだ。
気が滅入ったけれど、ノー天気な私の気持ちに喝が入ったようだった。見学に来ていた若いカップルも、入るときと違って、帰る時は深刻な暗い顔をしていた。
それで思った。高校の修学旅行で外国に行く場合は、観光地でなくインドのスラム街や強制収容所のようなところに行けば、平和のありがたさや今の自分がいかにしあわせであるかが身に染み入るのではないかと思った。

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