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内田康夫夫人であり、作家・エッセイストでもある早坂真紀の随想を不定期でお届け致します。

どっち?

2022.4.17 Sun

軽井沢の春はせっかちだ。
長い長い冬に安眠をむさぼっていて、私が軽井沢に帰ってきたというのに、いっこうに芽吹こうとしなかった森の木々。春はもうちょっと先かと思っていたら、小鳥たちのラブコールは始まっていた。
ラブコールに刺激されたわけではないと思うが、ベランダから見るとたった一日の季節外れの気温上昇で、突然の緑の気配。薄緑のベールがカラマツ林を包み去年の枯れ葉を落とし忘れたままのレンギョウの枝から、小っこい緑が顔をだしていた。まわりの様子に慌てたように白木蓮も頭を出して、そしてそして、しだれ桜までがほんのりとピンクのつぼみの先ッポを見せている。
まったくせっかちで現金なヤツ等だと苦笑いが消えないうちに、唸りをあげながら森のすべての木々が濃い緑になってしまう軽井沢の春。
でも!でも! 我が家の北側の屋根から滑り落ちた山盛りの雪がまだ溶けずにいるし、浅間山もまだ白いままだから、はっきりしない軽井沢の早春?初夏?
どっちでもいいと、ちょっと浮かれて散歩に出た。
するとすると……、カモシカがあっちから歩いてきて私に気づき立ち止まったではないか。
「ごめん! 私、帰るから安心して散歩して」と、道を譲った。たぶん「ありがとう!」と感謝しているはずだ。優しい眼差しで私を見つめていた。
面差しがちょっとキャリーに似ていて、やはり私は人間により動物に好かれているのだなと、うれしかった。
ルンルンの午後だった。

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2022.4.20 Wed カティンの森

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2022.4.10 Sun 棄霊島……2