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内田康夫夫人であり、作家・エッセイストでもある早坂真紀の随想を不定期でお届け致します。

マダニ

2022.9.7 Wed

マダニの季節のようで、テレビでは草むらに潜むマダニへの注意を促していた。犬の散歩などで草むらに入ったときは注意をするように……とのことだ。
人間がマダニに咬まれると、マダニの持つウイルスにより発熱、嘔吐、下痢等々が発症するらしい。
しかしキャリーがいたころ、マダニという知識も感染症という知識もなく、私は素手でマダニをつまんでいた。
別荘族が都会に引き上げた後、キャリーはリードなしで森を歩いた。
「行けーッ!」と言えば、長い毛をなびかせ、目を細めて全速力で走るキャリーの姿は、それは美しかった。そのとき私は、都会の犬は自分の足の本当の早さを知らないのだろうなと思ったものだ。
草むらを覗いてバッタに驚き、ウンチをするときは草むらに入って目を宙に据えて、「見ないでよ」と情けない顔をしていた。用が済むとテレたように草むらから出てくるキャリー。
そして何日かすると、長いキャリーの顔にプツンと4×7ミリほどの赤い袋が下がっている。指でつまんで捨てると、血の中からダニがモショモショと這い出してくるから、私は足で踏み潰していた(あ! 靴は履いてますから)。夫はそれを見て「ぎゃっ! よくやるよ」と目をつぶっていたっけ。
それがマダニだった。よく感染症にかからなかったものだ。知らないってことほど怖いことはない。
夫は男のくせに(~のくせにって、セクハラになるのだった)、そして少年のころは田舎で暮らしていたはずなのに虫を怖がった。マダニは論外だけど、ゴキブリや軽井沢に移ってからはカマドウマまで怖がった。
「ほらッ! 出たッ!」と身を引き、そしてスリッパを振り上げて追いかけるのは私だ。バシッと叩き殺してティッシュで死骸をつまんで「ほら!」と夫に嫌がらせをしてポイッ。
あのころが懐かしい。いまは無言でポイッ!だもんな。面白くもなんともない。

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