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内田康夫夫人であり、作家・エッセイストでもある早坂真紀の随想を不定期でお届け致します。

きらめき

2023.2.12 Sun

何気なくつけたテレビは、NHKBS1だった。
青年がピアノを弾いていた。ショパンらしい。
その曲に私の目の前に、ワールドクルーズの時の大海原が広がっていた。太陽の光と戯れる波のきらめき……。
ピアノの手を止めて、青年はインタビュアーに「これって、波のきらめきみたいでしょう? 僕はそれを想像しただけで涙が出そうになるんですよ」と、恥らっていた。
ああやっぱりね……と、私の感性もまだまだ捨てたもんじゃないと、その時少し自惚れていた。いえ、彼のピアノ演奏が優れていたのだけど。
番組は『第一回国際ピリオド楽器コンクール』というもので、そのコンクールに出る『川口成彦』という若いピアニストを追っていたのだった。
惹かれて最後まで見てしまった。
ピリオド楽器って、古楽器のことらしい。フォルテピアノという古いピアノを初めて知った。このピアノは18世紀ころの、ショパンが弾いていたピアノやその複製品を弾くショパンコンクールだった。
ピアノにはペダルが5本もあって、ペダルによって音色を変えることができるらしい。テレビは時々彼の足元を映していた。
1次審査を通り2次審査で彼は舞台の上の3台のピアノを、曲によって弾きわけて、2位に入賞していた。主にヨーロッパで演奏活動をするらしい。
番組が終わっても、大海原の情景がまだ私に残っていた。
水平線の彼方から昇る朝日が波に託して届けてくれるきらめきは『希望』、そして水平線の彼方に沈む夕陽が波に託して届けてくれるきらめきは『安らぎ』。
そうだ! 私が夫のもとに旅立った時、遺骨の半分は夫と一緒に、半分は海に散骨してもらおう。
永遠にワールドクルーズを夫と楽しもう……と、川口成彦さんの弾くピアノのきらめきから私の『夢』が生まれたのだった。

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