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内田康夫夫人であり、作家・エッセイストでもある早坂真紀の随想を不定期でお届け致します。

埴生の宿

2023.2.20 Mon

去年の夏に『白須今』という若手のバイオリニストが我が家に遊びに来たついでに、ティーサロン『軽井沢の芽衣』でバイオリンを弾いてもらった話は、いつだったかこの欄で書いた。
そしてお店の裏にある『妖精の棲む森』の中で弾いた、バイオリンの音色が素敵だったことも。
その白須さんが11月に南青山で、12月に高輪でコンサートがあり、もちろんその両方に行ってきた。
彼はバイオリン。そして音大時代からの仲間だというギタリストの堤博明さん、ピアニストの野口明生さんと息の合った楽しいコンサートだった。また曲と曲をつなぐシャベリが若者らしく笑わせてくれた。
演奏曲の中に『埴生の宿』(ハニューの宿って、羽生結弦さんの泊まっている宿ではない)の演奏が始まったとき、私は不覚にも目に汗をかいてしまった。さいわいにもマスクをしていたので、鼻水はマスクで押さえて誤魔化すことができてよかったけれど。
この歌は夫の闘病中の散歩のときに車椅子を押しながら、毎日のように歌っていた歌なのだ。あのときもときどき涙声になって「どうしたの?」と夫に聞かれたこともあった(だったら歌わなければいいのだけど)。
『埴生の宿』を聞くとグッと胸が熱くなるのは何故だろう。自分でも分からないのだけど、映画『ビルマの竪琴』を見たとき(感動的なシーンだった)も『二十四の瞳』のときも、この曲が流れてきたとき、なぜだか胸にジーンときたのだった。
この歌は『ホーム・スイート・ホーム』というイングランドの民謡だ。そうか! イングランド……、私の望郷の念が泣かせるのかもしれない。それに夫が亡くなる二週間ほど前に「イギリスで待っているからね」と……、思い出しただけでジーン!

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2023.2.12 Sun きらめき