内田康夫夫人であり、作家・エッセイストでもある早坂真紀の随想を不定期でお届け致します。

光彦さんの住む街

2018.5.18 Fri

日本は熱帯地方に移動してしまったのだろうか。毎日暑くて暑くて、道行く人は誰もがゲンナリした顔をしている。
グダグダ・ウダウダしていたら、ウエストや腰回り'etcが限りなく肥大してくるので、昨日、思い切って『名探偵☆浅見光彦の住む街』ミステリーウォークに行って来た。
よく考えたら過去何度も行っているのに、私は地図がわからない。今までは車の助手席で運ばれ、界隈を夫の上着の裾につかまって歩いていただけだったのだ。
それで今回は事務局のスタッフにも頼らずに、一人で行く決心をした……けど、やはり一人では何だかなァと、毎日新聞社の『孤道』担当編集者Ｎさんを誘っての二人ツアーになった。Ｎさんはこの辺りは初めてだとのこと。
ＪＲ『上中里駅』で待ち合わせ。私は上中里駅も初めての下車だ。
坂道・石垣・鬱蒼とした緑など、昔からの人が住んでいるようないい雰囲気で、まず『平塚亭』に向かう。
平塚神社の緑が凄くて「夫はね、少年時代にこのあたりで悪さをしていたのですって」と私が言うと、Ｎさんは「死体も埋めたじゃないですか」。
お店は引きも切らないお客さんにびっくり。店先でみたらし団子を食べつつ、看板娘（婆）の大福おばさんと、壁に貼ってある夫の在りし日の写真にしんみり。
『霜降銀座』や『染井銀座』をフラフラ歩いていると、薄緑色の手帳を持った人に出会う。
ここに夫がいたら、皆さん喜んで下さるのだろうなとしんみり。しーちゃん広場でひと休みして、また壁の写真にしんみり。
大好きな薔薇を見たくて『古河邸』に行く。高齢者は入場料が割り引きになるので、恥ずかしげもなく「私、昭和○○年生まれです」なんて言って、割り引いてもらった。夫がいたら「やめなさい！」と言うに決まっている。夫はいつも普通料金で入ったのだったなとしんみり。
古河男爵邸はいかにもいかにもだが、前世男爵だった我が家とはちょっと趣きが違う。もっとも我が家はイギリス・チェシャー州のマナーハウスだったのだけど……と言うと、夫は絶対に鼻で笑うはずだ。
連日のこの暑さだ。薔薇は盛りを過ぎていた。人間に例えたらこの花は40才だの、枯れて半分散っている花は私だ！　なんて思っていると、前を行く女性が同じことをお連れさんと声を出して言っているので笑ってしまった。
まァ！　歩いた歩いた。このあいだ青山一丁目駅で、地下二階から階段を上がったときには痛くならなかった腿の筋肉が、今日はパンパンに張っていた。
「私、昭和○○年生まれです」と言ってしまったので、筋肉が実年齢を思い出してしまったのかもしれない。