内田康夫夫人であり、作家・エッセイストでもある早坂真紀の随想を不定期でお届け致します。
匂い臭い
2019.9.6 Fri
東京と軽井沢を往復するときは、もちろん北陸新幹線を利用している。
長野新幹線ができるまでは東京・軽井沢間は、特急で2時間10分ほどかかった。それがおよそ1時間15分ほどになり、そのスピードの短縮に感激していた。
時間短縮の便利さと、車窓風景がトンネルばかりの無機質なものに変わり、文明は自然(地球?)を破壊すると怒っていたが、そのうち感性が鈍化してしまって、無機質が当たり前になっていた。
そして長野新幹線が北陸新幹線になって、終着駅が長野から金沢に伸びた。
終点が金沢は『はくたか』で、長野止まりは今まで通りに『あさま』。
『あさま』は必ず軽井沢には止まるが『はくたか』は止まったり止まらなかったり。でも東京から軽井沢までの所要時間は『はくたか』のほうが7分前後短い。
1時間15分で感激していたのに、感動する風景がないのなら、乗車時間は1分でも短くと、いまでは大混雑時以外は『はくたか』に乗ってしまう。
先日も早めに予約してあった『はくたか』で帰ってきた。
右窓側の席に座って、隣の席にはどんな人が乗ってくるのだろうと、楽しみ(でもないか!)にしていた。大宮から乗ってきたその人は山登りをするのだろうか。「失礼します」と、大きなリュックを足下に置いて腰を下ろした。
「失礼します」だなんて、感じいいなと思ったが、感じがいいのと匂い(臭い)は別だった。
あのクソ暑い(下品でごめんなさい)中を大きなリュックを背負って汗びっしょりだったのだろう。プ~ン!と汗の臭いが漂って来た。加えて加齢臭が。
私は左の鼻の穴を押さえて、無機質な風景を見ていた。そして見ることもなく見ていたら(なんだ! 興味があるんじゃん)、テーブルを倒してガラケーを置き、腰を浮かして(腰を浮かすから空気が動いて、汗と加齢臭が……)コードを出してスマホに充電。
立山かどっかに登る、本物の登山家なんだなと思ったけど、今度からは7分短縮だなんてケチなことは考えないことにした。「あさま」だったら、たぶん登山家はいないと思うから。